私が駆け出しの頃、仕事先でこんな話を聞いた。
「職人さんの手間賃は、値切ったらあかんえ。物を買うのと手でする仕事とは違うからね。」
出先のお年寄りが、孫に教えている言葉だった。
そこの家の子供に与えた影響の程はよくはわからないが、
私はその時に、相手の仕事を大切にする姿勢と自分の仕事に対して責任を持つ職人としての在り方を考えさせられた。このお年寄りの言葉が、教えようとした心が、昔の日本にはこういう考え方が確かにあった。
中学時代、本好きだった私は、古典落語の本を読んでいて江戸時代にいってみたくなった。
ちょんまげ・帯刀の侍に憧れたのではなく、職人話にひかれたのだ。
そこには、職人の話が頻繁にでてくる。みんな生き生きとしていて午前中働いたら午後は芝居小屋にいったり、花見に行ったりしていた。昼から仕事をしている人間は腕が悪いとさえ言われていたのを思い出した。
人々は文化の実りを楽しみ、何かしらの問題を抱えつつ、互いに認め、許しているそういう世界が
そこにある。
人々はお互いの仕事を大切にして再びそういう活気あふれた日常が来ることを願う。
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